「かけられた願い達は、かなえられるのを待っている・2」
守兄の話が出てきたので、当然、あの人たちもあるはずだ、
ということで。
1.
「自分でも、こんな事を言うとは思わなかったな。」
展望室の、
「無限に広がる大宇宙」を映す窓を背に立てかけられた
『七夕飾り』を前にして、ひとりごちる技術長。
「あの時は、もとはと言えばあいつから、だった。」
2.
回想、技術長。
八年ほど前に遡る。梅雨のころ。あの日もいつものように、自分は
新見と研究室に籠っていたのだが。
「おーいるいる。真田―。これここに置かせてもらうからな。」
ばさり。ラボの戸を開けるや否や、たまたま置いてるものがなくて
空いていた部屋の空間に、このあたりにしては見事な『笹の葉』を
立てかける。
「守さん!いきなりやってきて、許可もなくこんなかさばる物、
置かないでください!貴方が好き勝手するのに空けてるんじゃ
ないんですから!」
「いーだろ、薫?別に未来永劫ここに置くわけじゃないんだし。
七月七日が終わったら、即効撤去するからさ。ここが一番、
いい場所なんだから、な?」
「七夕飾りなんて、今さら子供じゃあるまいし。」
「まあいいだろう?新見君。そんなに長い間じゃないんだから。
それにたまには年中行事するのもいいじゃないか?」
「先生がそうおっしゃられるなら…。本当、先生は守さんに
甘いんですから!」
親友と後輩~もしくは交際中の二人~の痴話げんかに『野暮』
ではあるが、仲裁をしたことになったのだが。
世間が何やら不穏な時期でもあったせいか、笹の瑞々しい緑と
金銀色とりどりの七夕飾りは、思いがけない位に心の平穏を
もたらしてくれることとなった。もちろん、それはこちらの都合も
顧みず、突然押しかけてきては、様々なアイテムの作成やら飾り付け
やらに巻き込んでくれる、人騒がせな親友に付き合わされる代償でも
あったのだが。
3.
「弟とな、毎年一緒に飾ってたんだよ。」
古代の弟。八歳違いの、まだあどけなさが残るあの子の
事か。
「俺がこっちに来てから、一緒に出来なくなったけどな。何ていうか、
何かしてないと落ち着かないっていうか。」
本当に、奴は弟思いだ。両親を一度に無くして以来、ますますというか。
あの新見君が、
「私と二人きりの時でも、しょっちゅう弟君の話するんですよ」と、
さすがに嫉妬を隠しきれなくなるのを聞くと。
そろそろ弟君も一人立ち出来る年頃になってきてるのだから、いい加減
「弟離れ」したらどうかと思ったりもしたのだが。
「なんて言うか、短冊に願い事を書いて飾る、っていうのが好きって
言うか。」
「今どき、『星に願いを』、ですか?守さん。このご時世、子供だって
しなくなってるのに。」
新見の言う通りであった。遊星爆弾の被害が世界規模で報告され始めて
居た頃。「星」は願いをかけるべき対象でなく、地上に災厄をもたらす
恐るべき存在に変わり果てていたのだから。
「星に、じゃないよ。いくら何でも、こちらは最前線要員だから、
それくらいは承知してる。大事なのは、『なりたい自分』を目標に
するのに、目に見える形で決意表明するってことかな。」
「それはどういうことかしら?守さん。」
「願い事は自分のためにする、ってことだよ。人生後悔しないように。」
「…本当、あなたには遠慮、ってものがない人なんだから。」
後悔しない人生。それはつまり、
「自分自身に正直に生きる」ということであったのだが。
その結果。奴は遠い冥王星星域で戦死。自分と新見は今こうやって
未知の惑星イスカンダルへ向かう艦に居る。自分は「メ号作戦」の
実態を知っておきながら、奴に伝えられなかった。
短くも、自分に正直な人生なのと、己を欺きながらも生きながらえるのと。
果たしてどちらが「後悔しない」か。
華やかな飾りと共に下げられている「短冊たち」を眺めながら。
それでも「答え」はまだ出ていない。
<終わり>
「2199」では、古代弟君の誕生日が七月七日になっていることを忘れてましたよ;。
ということは、彼は「かに座」生まれということになるようで。…まあ、旧作の、どう見ても
火のトライヴ(え)以外の何物でもないわけでもないので。しかし。水のトライヴの主人公か。
時代も変わったな、と思うこのごろ。
« 「かけられた願い達は、かなえられるのを待っている」 | トップページ | 牙狼<GARO>~闇を照らすもの~ #13. »
「2199二次創作」カテゴリの記事
- まよいのもり。(2013.09.27)
- 「ただそれは矜持と誇りのためだけに」(2013.08.22)
- 「こころのねいろ」(2013.07.27)
- 「かけられた願い達は、かなえられるのを待っている・2」(2013.07.05)
- 「かけられた願い達は、かなえられるのを待っている」(2013.07.03)
この記事へのコメントは終了しました。
« 「かけられた願い達は、かなえられるのを待っている」 | トップページ | 牙狼<GARO>~闇を照らすもの~ #13. »
コメント