「宙に輝け、満開の花」#7.
未来へ向かうために、過去に戻る。その3。
回想。
「その人」と、二人きりになって。
「本当は、貴女と私、顔を合わせることなく済んだはず
なのに。貴女がいきなり戻ってくるなんて、本当、予定外
だったわ。」
自分が知らないところで、自分の運命に関わる重大なことが
起こっている、というのはこういうことなのだろうか。
何一つ、実感がわかないのに。
「その人」は続ける。
「あなたのお察しの通り、私は貴女のお父様の『愛人』
だったの。もちろん、貴女のお母様が生きてらしたら、
こんな風には絶対にならなかった。私にもそれなりに
矜持、というものがあるから。相手の家庭を壊すような
ことだけはしない、という、ね。」
父は、政府要人という立場の人である。自分も、もちろん
亡くなった母も、大事にしてくれていた。しかし、「裏」では
今、自分の目の前に居るような「そういう女性」との関係を
持っている、というのは、幼いながらにも薄々気づいていた。
ただ、母の悲しむ顔を見たくないから、わざと気づかないフリ
していた、というのもあるが。
「でも、貴女のお母様は亡くなってしまわれた。本当に
急なことだったし、貴女が叔父様の下でプロメテ移住計画に
参加することも既に決まっていたから、お父様は随分迷われたわ。」
父が、迷っていた、と。
あんなに、自分が家を出たら父一人きりになってしまうから、
と言っても
「心配しなくて良い。思うように生きれば良いから。」と
優しく言ってくれていたのに。
「一緒に暮らそう、と言って下さったのは、お父様の方。
私は、いくらなんでもいきなりには出来ない、とお断り
したのだけれど。
自分は娘を送り出してやりたい。でもそうすれば、あの娘は
もう二度と自分のところには戻ってこないだろう。自分の
迷いを断つためにも、できるだけ早くそうしたい、
とおっしゃられたの。」
今となれば、父の心中も推し量れるが、その時まだ幼かった
自分は、ただ父が自分だけでなく母も裏切ったのかと思い、
怒りと情けなさでどうにかなりそうになっていた。
「お父様は、私の娘を、『この家の娘』として迎える、
とおっしゃってくださったわ。血が繋がっているわけでは
ないのにね。正直、私が『正妻』になる以上に、娘が
『霧野の娘』になれる事の方が、母親としてはこの上ない
幸運なの。貴女が受けてきたのと同じ幸せを、うちの娘が
与えてもらえるのだから。」
お父さんは、私の代わりに「その人の娘」を受け入れた。
私は、いらない子になったんだ。
自分が好きなことをさせてもらっておいて、何を今更では
あったけど、それまで自分は、
「父と母の、かけがえのない、たった一人の女の子」であった
のが、「代わりの効く存在」にすり替わっていたという事実。
そのほうが、まだ義務教育を終えたばかりの子どもには、
大きな衝撃だった。
いらない子。いらない子。もうこの家には、自分の「居場所」は
ない。
こんなところ、出て行ってやる。ごめんなさい、お母さん。
でも私は、こんなこと聞かされてまで、この家に居たくない。
「そう…ですか。では、父を、よろしくお願いします。」
何で笑ってこんなことが言えたんだろう。本当なら、
ここは母さんと私の家なんだから、あんたの出る幕じゃない
と食って掛かって当たり前なのに。
もしかしたら、「あの時」から「笑顔」で縒ろうことを覚えた
のかもしれない。
「いらない子」なのに、それでも「心の広い、優しいお姉さん」
という「居場所」を得るために。
気がつけば、かつての「自宅」の前に居た。佇まいだけは、
昔と変わらずに。懐かしさを感じた、そのとき。
家人の、声が聞こえた。お父さんと、お母さん、そして、
にぎやかな、明るい小さな女の子の、笑い声。
かつての自分が、当たり前のように居たその場所に、
今は違う子が。
「ここには、私の居る場所はない。」
気がつけば、踵を返していた。出来るだけ、早く、遠く。
戻ろう、帰ろう。今の自分が居るべき場所へ。
~~~~~~~~~~~~~
リサが基地に戻ってきたのは、その日の夕暮れだった。
そして。
何故、今日、街の花屋にチューリップ「だけ」がなかったのか、
その理由を目の当たりに。
「誰よ、こんなことするの。」
見当はついている。全く彼は。でも「彼」の心配りには
物凄く感謝をしつつ、思わず顔がほころんでいた。
「そういえば、明日。来るんだわ、彼女達が。」
<了>
回想終わり。次から話、動くかな。おおむね予定通りに
進んでます。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
こんにちは(^0^)/
愛人と前妻の子供とのやりとりって、なんだかすごい;よくテレビではありますが…
(本当は貴女と私、顔を合わせることなく済んだ‐
本当、予定外だったわ‐
相手の家庭を壊すようなことだけはしたくない‐)→綺麗な会話のようで実は、ちゃうやろー、みたいな;本当にそう思って、本当にいい方なら、あのリサならこの〔愛人〕に歩みよろうとするでしょう。
(もしかしたらあの時から笑顔で‐)→たまに後ろ姿の無言で語るリサ姉のシーンを思いだしました。
(全く彼は、でも彼の心配りには)→ここで〔彼〕が出てくると、なんだか温かみを感じてホッとしましたよ♪
居場所をさがすリサって、びみょ〜にトニーっぽい…
投稿: GO!GO! | 2012年5月11日 (金) 11時06分
こんにちわ。コメ有難うございます。
>愛人と前妻の子供とのやりとりって、なんだかすごい;
一応、前妻の子は14,5歳くらいの設定なのですが、実際には百戦錬磨の「大人の女」に良いように丸め込まれてるのが;。
>あのリサならこの〔愛人〕に歩みよろうとするでしょう
「腐鯛」ではないですが、曲がりなりにも「正妻の娘」ですしね。本来ならこちらの方が立場強いはず、なのですが。「母親VS小娘」ではもう、明らかに、なのが;。
>たまに後ろ姿の無言で語るリサ姉のシーン
明らかに、「セル枚数節約」演出ですが(おい)こういう「実写ライク」なものは、プロの仕事だと思います。最近の作品では余り見かけなくなったというか。
>なんだか温かみを感じて
そう思ってもらえて何よりですw。
>居場所をさがすリサって、びみょ〜にトニーっぽい…
元の作品自体、「ここではないどこかを目指す人たち」の話ではありますが、何気に収まるところに収まってるのが何と言うか、です。
そういえば、トニーさんと霧野さんの2ショットという構図のイラスト、いまだに見たことがないような。この場合、二卵性双生児に見えるのかそれとも、興味あるところですw。
投稿: 由維 | 2012年5月12日 (土) 02時06分