「好き」シリーズ最終編です。どうにかなるかな。
「展望台で待ってるから」
誘いをかけてきたのは、意外にも「彼女」の方からだった。
「あれ」から「艦内時間」にして数日。実際は大したこと
無くても、自分にとっては長く、重い時間の流れに
押しつぶされそうになっていた。
出来るだけ周囲には気づかれないよう、誤魔化してはいたが、
お互い目を合わさないでいるのも、いずれ空気がおかしいと
感づかれるのもそろそろ時間の問題かと思われた、そんな
頃合を見計らったのか。
周囲が寝静まった頃、相方が寝入ったのを見計らって、
落ち合う場所へ急ぐと、既に「彼女」は着いていた。
二人きり。どれだけの怨み辛みを暴露されるのか、
半ば戦々恐々だったのが、向うは意外にも、晴やかな
笑顔で迎えてくれた。もしかしたら、こんなに「彼女」が
笑っているのを見たのは、久しぶりだったのかもしれない。
だが、かけられた言葉は。
「実は私、あの子がいなくなってくれて、清々してるの。」
自分の目を、耳を疑う。
「彼女」は一体何を言ってるんだ。少なくとも、満面の
笑顔で語るべき話ではない。そんなこちらの狼狽など
お構い無しで、「彼女」は話を続ける。
「あの子の死に顔、貴方も観たでしょう?安らかで、
幸せそうに微笑んでいて、物凄く綺麗だったの。
誰かに、そうね…ほぼ確実に、貴方に恋したから
あんなに綺麗に笑って逝けたんだと思うの。」
いきなり、核心を抉る「彼女」。
「もしあの子が生きていたら、間違いなく貴方は
『あの子』に惹かれていたと思うの。現場のスキルは、
足手まといにしかならない私と違って、貴方のサポート
十二分に出来るわけだし。そんな『あの子』を、貴方は
絶対に無下にあしらうことなどしないから。いずれにしても、
仲を深めていくあなたたちを、私は微笑ましく見守ることなど
出来っこないけど。」
視線だけは合わせないようにして、彼女は続ける。
「貴方を好きでなければ、貴方とあの子を応援するでしょう
けど。生憎と私には出来ないの。だって、好きな人を他人に
わざわざ譲る訳無いじゃない?だから、これ以上、
居て欲しくなかった。目の前から消えてくれて、本当に
嬉しかったわ。」
くすくす。かすかな笑い。密かに自嘲が篭りつつも。
「本当、嫌な女だわ、私。自分が勝手に想ってる人を
取られそうになったから、死んでくれて有難うだなんて。
普通の感覚なら、こんな怖い事思いもしないのに。
私って、こんな恐ろしくて後ろ暗い人間だって思い知らされたの。」
声に翳りが降りる。そして、恐らくはこれが意趣返しの
正体だったかと。
「私、人を…貴方なんて好きになるんじゃなった。
でなければ、こんな辛い思い、しなくて済んだのに…。」
嗚咽がこみ上げてくる。恐らくは、ずっとこらえていたのだろう。
張っていた虚勢はすでになく。彼女はその場に泣き崩れて。
「分かったでしょう?私、こんな冷たい女なの。
貴方が『好き』といってキスした相手は、こんな
人でなしなの。どう?後悔してるでしょう?あんなこと、
言わなきゃ良かった、しなきゃ良かったって。」
最後は慟哭。言葉は静かでも、心が悲鳴を上げて居る彼女。
自分の痛みなど、比べるにも及ばない程に。
こんなところで、誰が手を離すものか。
「後悔なんか、してない。」彼女を真っ直ぐに見据える。
「何で後悔なんかしなきゃいけないんだ?お前がどんな
女だろうと、俺がお前を『好き』なことに変わりなんか
あるもんか。俺にとってはお前はお前でしかないんだから。
例え人外だろうと冷血漢だろうと、全部まとめて俺は
お前が好き
なんだよ。」
本当は、心臓が破れそうだった。「好き」という言葉を
口にするたびに、心が切り裂かれていくような、痛い
思いに、全身を貫かれていくようだった。
けど、ここで傷つく痛みを畏れていたら、大事な宝物を
亡くして、二度と手にすることが出来なくなる。
ならば。
繋いだ手は、もう二度と離さないから。
「貴方…?」
彼女、半ば放心状態。思いがけない返事に、どうすれば
良いのか、しばしためらう。
その隙を逃さずに。
「好き、…大好きだよ。」
「彼女」を、抱きしめる。ゆっくりと、出来うる限り、
優しく。
「貴方に届くまで、何度でも繰り返すから。
好き、大好き。」
この腕に、少しづつではあるけど、力を篭めて。
自分が迷わなければ、彼女にこんな思いをさせなかったのに。
もう二度と、しないから。
自分を見上げた彼女と、合う視線。彼女、目を軽く閉じる。
…いいの?
今度は、触れるだけのキスをする。
<了>
一応、責任の所在を明らかにしました。(おい)仲直り、だと
思いますが。それにしても、こんなに長くなるとは思いません
でした;。それにしても遠回りな人たちです。(え)
好きな男性と出会う 出会い漫画編
最近のコメント