「今夜月の見える丘に」
「今夜、満月だそうだ。」何でも、「とっておきの場所」
が基地の近くにあるそうな。まあ、これだけ見晴らしが
良ければ、一つどころか、いくらでもありそうだが。
観に行かないか、と出向いて語る、あれやこれや。
少なくとも、今自分の隣にいる「そいつ」は、
今頭の上で光り輝いてる「そこ」で「仕事」をしてきた。
認めなければならない、紛れもない事実。
「チーフ・パイロットの件だけど。
やっぱりタクマ、お前だろ。」
「それで良いわけ?俺は秀人、お前がやるべきだと
思うけど。経験、とはいってもそんなに変わる
わけじゃないし。」
「折角のチャンスを棒に振るような、そんな
お人よしはいない…いや、いるか、お前さんが。」
オーストラリア基地での攻防戦。確かに自分は
「実績を上げようと」した。ここで点数を稼げば
評価は上がる。
民間から抜擢された新人。聞こえはいいが、
周りは厳しい適性試験をクリアしてきた「猛者」
ばかりの『ジャスダム基地』。
(コンピュータ室の、あの綺麗なお嬢さんにした
ところで、そのあたりは変わらない。)
有事の際に、どれだけ「働けるか」。それが
全て。もちろん、生命の危険を顧みることも
出来ないかもしれないが、それは仕方がない。
自分の運の無さを諦めるしかないわけだし。
それなのに。こいつときたら。
ミッションの最初から最後まで、自分を
「気遣って」いたというし?。
(ソースは、あのお嬢さん。それにしても
よく観てるな、こいつのこと。あの非常時でも。)
自分が死んだ、と早合点して、爆泣きした時に。
(これだけでもどうかと思うが)
現場をしっかり押さえられたキャプテンに、こう
言われたとかで。
「秀人を大事に思うなら、何故一人で行かせた?」
『大事に思う』。耳障りはいいが、何故そんな暇が
あったのか、とそっちが気になる。
ああいう場合は、それこそお互いの眼力と胆力と
なけなしの幸運を味方にして、
「お互いに最善を尽くそう」ではないかと。
尽くしたところで、敵がそれを上回れば、
それだけの話であって。何もこいつが一人で
全て背負い込む役ではないと思うのだが?
で、この類稀なる「お人よし」野郎はさらに続ける。
「…相棒を無駄死にさせたくない、のは
『人として』当たり前だろ?」
「人としては、ね。」誰もがそう思う。
だが、刹那で命のやり取りをしている以上、
それがただの「お題目」に過ぎないことも
明らかなのに。
「お前は俺の『相棒』で、『代わり』でも
『影』でもないから。」
「身代わりじゃない」、と言う言葉。そういえば、
自分は結構長い間、「誰かの代わり」であることで
生き延びてきたはず。
(最近では、もっぱらジョーの、であったけど)
「自分」ではない、「誰かの影」として生きる、
ということ。
それが「最良の方法」であるならば、受け入れるのも
「大人の判断」だと、自分を宥めていたが。
『相棒』だから、大事。
こんなこと、大っぴらに言える奴はそういないだろう。
だが、自分の傍にいる、『暫定;チーフ』はかくも
きっぱりと言い放った。
「代わりじゃない」。「影、なんかじゃない」。
何かが、自分の中でざわついた。
「…分かった。お前には勝てない。だからやっぱり、
チーフはお前、なんだよ。」
憑き物が落ちたような感覚。いつか誰かに、きっと
言われたかったに違いない言葉。
お前に出会えて、良かったよ、本当に。
「でも、安心するのはまだ早いからな。いつだって
追い抜いて見せるから。」
「それは、『向こう』で見てやるよ。」』奴は
蒼い光の中、視線を天頂近く差し掛かるそれに向ける。
「『向こう』って、月のことか?」
「そうだ。俺も『最初の宇宙』は月面だったからな。」
「月、か。」
「二人とも、ここに居たの。姿が見えないと思って
探しに来たら、やっぱり。」
背後から、いきなりオペレータ嬢の声。俺達より、
彼女のほうが、こんな夜中に一人で出歩くほうが
物騒だと思うんだが。
「よく分かったな、ここの場所が。」行き先を
告げなかった自分達も悪いが、それでよく突き止め
られたものだな、と思ってると。
「分かるわよ。これ位はね。」
にっこりと、彼女はそれは綺麗に微笑む。
まるで
「月光に冴える、一輪の花」の如く。
それは、「月の見える丘」での些細な出来事。
<了>
「ダンガードA」二次創作です。結構久しぶり、かも。
宿題、終わりました。いつぞやの『出会い』後編です。
実は、前編見直してません;結構時間もたってるし、
当時「落としどころ」が見えず、今に至ったので。
「月」が狂言回しになりましたが、いろんな意味合いが
含まれるものだと、改めて感じ入った次第です。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
今日は仕事が休みなんでダン32話のRX2絶対絶命を観ながらコメしてます。この後の満月の話しなんだわい♪
安心しました。
秀人は、[俺は二番手で、タクマの影なんだ]っていつもそう思って、サテライザーを操縦してるんだーって私思っていましたが、だってリサ姉にも(タクマにしがみついて見ていろよ)なんて、身をひいてるよーな事言ってる時もあったし…
[お前はおれの相棒で代わりでも 影でもないから]ってちゃんとタクマから言われてたんだー;
チーフパイロットがタクマだって、はっきりした辞令のシーンがなかっただけに満月の日に二人で確認してたのでよかったなーと。
秀人の心の様子がかいま見れて、また33話から違う目線で観れそう。
あとフリーゼの事やらかしちゃった、やんちゃな秀人の心情は、どう表現されるのかしらーとちょっと期待して、この回まで繋げて欲しい今日この頃ですわ。
二次創作ありがとうごさいます。
投稿: GO!GO! | 2011年11月 9日 (水) 11時04分
毎回のコメ、有難うございます。
満月の夜の散歩にて、みたいな感じになりました。月の光の下ならば、思うことを素直に暴露できるかな、という感じで。
(それに「月」は何かと因縁があるので)
どこにどう落とすか、実は前半書いたときはまるで分からなくて;。今回3周目のレビューで見えたかな、といった具合です。
何気に、タクマの周りではやたら人死にが多いような;そんなところから引っ張ってきたのですが。
フリーゼさんはね~w。思うところ山ほどありますしwww。それこそ「薄くて高い本」丸ごと作ってしまうくらいにwww。
投稿: 由維 | 2011年11月 9日 (水) 15時18分